喜望峰〓リスペクト2〓それでも不満足


デフレの真っ只中でタバコ値上げ。
ついでなら1000円ぐらいにすれば喫煙かが減って健康増進法(?)にもいいだろうに。
まぁ、そうしたらまた経済がふにゃ〓ンってなっちゃうんだろうけどさ。
自分の中で芽生えた少し悲しい思いが体の中に根をはっている。
そいつは体の隅々から少しずつ力を奪ってずっしりと全身を重くしてしまう。
あぁ、どうしてこんなに悲しいんだろう?
これは山田詠美の繊細でゴツリとかっこいい文章を読んだからだろう。
きっと彼はこんな文章を読んで繊細な表現に感動する事もないだろうし、文章に涙する事もほとんどないんだろう。
本当に可哀想!
どうして世界を見ようとしないんだろう?
自分の篭っている殻を打ち破って自分の力で世界を捉えればそこには好きなものが落ちているというのに。
きっと彼が家庭教師をしてもこんな気持ちになる事はないんだろう。
付き合ってもつまらないと思うし、同時に本当に可哀想だ。
俺なりに結構真剣に導いてやってたつもりだったんだけど通じなかったのか。それともその言葉すら理解されなかったか。
アホは嫌いといいながらも切り捨てる事ができない。弱いョなぁ俺。馬鹿だなァ俺。
彼の為に涙でも流せば楽になるんだろうけど俺は涙を安売りしない。
幼稚園の頃から一緒にいて、小学校の頃ずっとお嬢様な服着てて結構好きだった、つーか隣りにいるのが当たり前だった女の子に、小学校六年の修学旅行であり得ないような、マジで小学生とは思えないような告白されて、その後女の子に全然興味なくなっちゃうぐらいすごいので今でも俺のアニマは彼女だったりするわけだけど、その時は吃驚して顔真っ赤になって心臓バクバクで死にそうになって人生で始めて本気で逃げてスッゲー後悔したけど別に良いかと思いなおすのに2年ぐらいかかった女の子と久しぶりに会って、彼女が普通のOLみたいな服着てて「アリエネー最低だぁ〓」と思ってマジで鬱になったときですら涙は流さなかった。
だから俺は彼女のためにも絶対にそんなアホな奴のために泣く事は出来ないのだ。
そうやって俺は悲しみを自分の中で飼育する。
ニョキニョキニョキニョキ。
悲しみは大動脈を通って全身に伝わって、次第に毛細血管の中にまで染み込んでくる。
ニョキニョキニョキニョキ。
植物の根のように全身に張り巡らされた悲しみの網は筋肉に食い込んで身体を重くする。
だから普段なら平気で決めるショットも決まらない。玉がいう事を聞かずに勝手に暴れ出す。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!
玉が転がる。玉がぶつかる。玉が落ちる!
急に自分の右手を引き裂く冷たく輝く鋼の爪が脳裏に浮かんだ。
その衝動は俺を焦らせ、いてもたってもいられなくなって自分の左手を右手に突き立てた。
でも、神経質に短く噛みきられた爪では赤い三日月型の傷を残すだけで皮を突き破る事も出来なかった。
その瞬間に絶望した!目の前が真っ暗に?いや真っ白になってぶっ倒れた。
悲しみが俺を通りすぎてしまったのだ。
俺はそこに取り残されて、右腕から全身に広がる不快感を身体を強張らせてじっと耐えるしかなかった。
自分の中を自分とは関係のないなにかが這いずり回っている様だ。
グルグルグルグル!ぐちゃ!
不快感と共にズルリと悲しみが引き抜かれた。
俺が掴んだ左手の傷から悲しみは引き摺り出されて俺の目の前に現れた。
そいつは大きな目をした兎だった。
大き過ぎる眼球は眼窩から大きく飛び出していて非常に不快な顔だった。
正直恐い。
全然悲しみといった雰囲気なんかなくて、どちらかといえばグロテクストいった感じだ。
唯一悲しみを象徴していると思われるのは大きすぎ眼球全体から糸を引いて流れ落ちるネバネバした涙ぐらいだろうか。
そいつは俺を見てにんまりと笑った(兎が笑うならだけど)あと、自分の巣穴に帰っていった。
地面に開いた大きな穴だ。真っ暗で。直径60cmぐらいの。
その中からは何故かボブディランの歌が聞こえてきた。鼻にかかった蓄膿症の声だ。
悲しみがいるところはきっとそういった世界なのだろう。そうやって俺は悲しみを捨てた。
捨てたのは良いが、もといた場所と随分違うところに来てしまった。
そこは大きな街で黒人やら白人やらアジア系の人やらがごった返していて、皆が自分の中の悲しみを引きずって歩いていた。
その悲しみは背中に羽の生えた熊の形をしていたり、足のない狼の姿で持ち主に噛みついたりしていた。
俺の兎なんて可愛らしいものだったのだ。
彼等はそれぞれの悲しみの家を捜して大きな街の中をウロウロと徘徊していた。
良く見てみると街のあちらこちらには巧妙に隠された悲しみの家が幾つもあってそこで誰かが悲しみを投げ捨てているのだった。
そんな街を歩いていると何時の間にか悲しみに捕まった。
今度の悲しみは赤ん坊の姿をしていて俺の事を「ママ」と読んだ。
こいつは洒落にならない!俺は18歳で子持ちの母親になっちまった!
取り敢えず子供に呼び名が必要だから「ダン・ジョセフ・H・キム・フォン・新吾3世」と名付けた。
ダンは綺麗な蒼い目をした金髪の男の子で、めちゃくちゃ可愛かった。ただし、足は4本あったけど。
あまりの可愛らしさに俺はその日から育児を始める。
夜赤ん坊が泣くと抱きかかえてあやし、オシメを変え、乳をやり、子守唄を歌った。
ダンに話しかける時は日本語と独逸語を使った。ダンの喋る拙い独逸語は最高にキュートだからだ。
そうやってダンを育てたが、ダンは一向に成長しなかった。
何時までたっても2歳ぐらいの男の子だった。髪の毛も伸びないし、背も伸びない。
4本の足を使ってヨタヨタと歩いていたし、言葉もうまくならなかった。
同時に俺も変化していなかった。毎朝起きて、夜に寝て、夜鳴きするダンを慰める。そんな毎日が定期的に繰り返されていた。
けど、少しずついろんな事をを忘れていった。
そうやって2年が過ぎてある日ダンと散歩をしているとふとした拍子にダンの家を見つけた。
それはスーパーマーケットの裏のゴミ箱の横にあった。
ダンは家を見つけるといてもたってもいられないようにヨタヨタと歩いていった。
俺はダンを抱きしめて止めようとしたけど、ダンは物凄い力で俺を空に放り投げてゴミ箱の横のダンの家に入ってしまった。
俺はその様子をグングンと上昇しながらみた。
米粒みたいなサイズのダンが家の中に消えた時に俺は泣いた。
ボロボロボロボロ泣いた。
グングン上昇しながら涙だけが下に落ちていった。
ふと見たら隣りに良く知った顔があった。
服装が変わって、中身も変わって、俺のことなんてほとんど忘れてたけど、やっぱり御互いに忘れられなくてグルグルグルグル巡り巡って同じとこにいた。
ダンは俺を見て笑っていたし、そのダンに合える手段は幾らでもある。
そうして俺は隣りの女の子を捕まえてそのまま二人で落ちていった。
どこか良く分からないけど、多分俺が居てもいい場所へ。