テロ対策特別警戒実施中。
いつの間にかそんな文字が日常の中に入り込んで、当たり前の顔をしてそこに居座っていた。
その文字はバス停に掲げられた板切れに書かれたものであったが、その板切れは僕の世界を嘲笑っているようだった。
その板が空爆注意になり、その後放射能汚染注意になるのかもしれないけど、まだそこまで行っていない中学2年の夏。
赤い髪をした女の子と再会して初めての夏。そして梅雨と同時にやってきた奇病でたくさんの人が死んだ夏。
その日はプリクラの写りが悪かった。
いつもなら綺麗に真っ白になるはずの背景はトイレの淵のように黄ばんで移り、愛香の真っ赤に染めた髪の毛は腐ったトマトのように発色の悪い色をしていたし、彼女の健康的な小麦色の肌は黒すぎる土色に写っていた。元から顔色が悪い僕なんて最悪で、じっと見ていたら血管が浮き上がってきそうな蒼白い肌をしていた。
愛香は怒ってプリクラの本体を蹴飛ばして、画面に手が痛くならない程度のパンチを繰り出していたが、高2の女子高生の力じゃびくともしないのがさらに苛立ったらしくて、身代わりに写りの悪いプリクラをプリクラの横に置いてある鋏で切り刻んで鬱憤を晴らそうとしていた。その鋏を使ってプリクラの本体を壊そうとしないところあたりが愛香の可愛い所だ。
僕はその今まで一番写りの悪いプリクラを初めて欲しいと思って、愛香を宥めて何とかそのプリクラを救出する。愛香はこんな不細工に移った自分のプリクラを僕が持つことを気に入らないみたいで、前に撮った僕が変なキグルミを着させられて撮ったお気に入りを押し付けようとしてくるが、僕はやはりそのプリクラにしか興味が湧かなかった。愛香はしぶしぶと自分の分を切り取って、残りを鋏で切り刻んでいた。
愛香と僕は週に一回、プリクラを取りに来る事を習慣にしているのだが、僕が全額出して撮ったプリクラはいつも気に入らない出来で一度ももらった事がなかった。そもそも僕はプリクラが嫌いだった。なんで自分や知り合いのみたくも無い顔をわざわざシールにして携帯に張ってまで持たなきゃならないんだ。だから、僕の分のプリクラは棄てるのがもったいないと言う愛香にあげていた。最近じゃ、週一回のプリクラは僕が愛香に一週間分のご褒美を上げているような形になっている。