独白、という名の孤独。

一人暮らし。
そう、それは時として物凄い人恋しさに襲われる生活である。
奴は深夜2時を過ぎた頃にやってくる。
トントンと、ドアを叩く音に気をとられた瞬間には俺の横に座っていて、一瞬ドアに目をやった瞬間に俺の肩に手を乗せて、振り返るとにんまりと笑って、俺にぴったりと寄り添っている。
あぁ、知っているさ。ドアを叩く音はお前が聞かせた幻聴だし、俺が見ているお前の姿は酷く歪んでいて透けて見えないぜ。
奴はヤバイ。奴に寄り添われると俺は猛烈に誰かに会いたくなる。人に。人間に。ヒューマンに。
それはこれ以上一瞬でも一人でいると日本語すら話せなくなりそうな勢いで俺を蝕む。
夢遊病者のようにジーパンを履き、上着を羽織る。夜だから服に気を使うことはない。どんなチグハグな服だって闇がすべてを隠してくれる。
そして俺はフラフラと夜の街に漂い出る。
東京とはいえここは郊外。新宿などとは違って深夜2時に開いている店などない。
そんな俺がいける場所は一つしかない。24時間絶やさぬ光を湛えて一人暮らしに耐え切れなくなった者たちの心にそっと寄り添う場所。そう、コンビニだ。
コンビニには人がいる。どんなときに行っても少なくとも一人は人がいる。そう、店員だ。
深夜の店員は可愛い女の子だと危険なため、ガタイが良いとは言えないが、ドスの効く顔をした店員が多い気がする。
俺が一歩ドアを開けて、闇夜に光を溢れさせているガラスのドアを通り抜けると、そんな彼が「いらっしゃいませ」と、こちらを見ながら温かい声で迎えてくれる。
いや、分かっている。彼らは機械的にマニュアル通りに挨拶をし、そして防犯上の目的で俺を認識するために一瞥をくれているだけなのだ。
理性では分かってはいる。だが、しかし、この冷え切った俺の心には彼の一言と、眼差しはとても素敵なものに見えてしまうのだ。
彼は時給1000円で俺に一時の至福を与えてくれているのだ。何という素晴らしい職業だろう!
俺は彼の職業精神の中に一種の宗教的倒錯をも見出してしまう。素晴らしい。コンビニが闇夜に溢れさせる光は俺たち(不特定な複数形)の希望だ。
だが、一度俺の姿を確認した彼はまるで興味を失ったかのようにレジの後ろでダンボールを解体し始める。
そう、彼にはそれ以上の興味を俺に抱かないのだ。彼を振り向かせたい。彼を俺のものにしたい。
時給1000円で俺にいらっしゃいませと言ってくれる存在。
時給1000円でご主人様。
時給1000円でさようなら一人暮らし。
そのような妄想が一刹那のうちに俺の脳内を駆け巡る。
時間稼ぎのために手に取った週刊誌、マガジンかサンデーかもはっきりとは分からない、は俺の手の上で冷房にあおられてページが進んでいる。
あぁ、そうか。
目出し帽にフルフェイスのヘルメットをかぶれば彼はもっと俺のことを見てくれるだろうか。
俺はゆっくりと週刊誌を閉じて、店を出る。
こうやってコンビニは今日も日本の平和を守っている。

注意。この文章は全く持って捏造でありましてこのようなこと全く持って思わないわけではありませんが少なくとも後半はありません故に別に通報しないでください。だってあれだよもん。なんだ。うちの近所のコンビニの店員可愛い男の子いないし(マテ