ただの、そんな夜

寝れない、などという悩みは子供のものだろうか。
眠りにつこうと身体の力を抜くと、身体と意識の間にするりと不快な、ではあるが回避不可能であり本来的には直視せねばならないナニかが、薄いヴェールのようにかかり、それがまとわりついて、気持ちが悪くて、ふと気が付いたら目は覚めている。いや、寝ることより起きていることの方がずっと、楽だ。
眠るよりは落ちるという感覚の方が近い睡眠。目が覚めると内臓がしみる。
夢の中に広がる黒いシミ。現実の諸問題が解決する度に近くなる足音。必要以上には見なくていいもの。だが、いま見なくていつ見るのだろう。
臍の辺りで滲む痛み。込み上げてくる胃酸の酸っぱさ。肉体の苦痛など、ただの安らぎでしかない。痛みは心をまぎらわせる。思考を乱す。ありがたい、存在だ。そんなことはないのに、その苦痛に、甘えたくなる。快楽は歪む。苦痛は粋。揺らめかずに真っ直ぐに、自分に突き刺さる。
考えないこと、などできない。それをやめるくらいなら、やめたほうがいい。だから、諦めている。
誤魔化すためではない。はずだが、そんな感じで、本を読んでいる。酒を飲んだ方がいいのかもしれないが、ビール一杯を何時間も前に飲んだきり、素面である。SFばかり目に馴染む。
ただの、そんな夜。